飛車と角どちらがお好きでしょうか?
もちろん飛車!と言う声が聞こえてきますが、角も負けてないぞ!と言う人も多いでしょう。
飛車が攻めの中心で破壊力がありますが、角筋を使って歩や桂とのコンビネーションで玉や飛車を狙い撃ち出来た時の気分は最高ですよね。

将棋で戦うのに欠かせない飛車と角の存在ですが、
皆様初心者の頃は好きな駒をもっと上手く使ってあげたい!!というような気持になったこともあるはずです。


「飛車厨」「角の利きは2万回確認」などの言葉がある将棋の大駒の2つで、人々の注目を集めやすい駒である飛車と角‥
今回はど
ちらが強いかを将棋AIを使って検証していきたいと思います。
飛車vs角

将棋AIによる飛車vs角の10本勝負をここに行います。

前回の金vs銀と同じように、
飛車と角の強さ関係を(ある条件下で)はっきりさせていきましょう!


10本勝負の設定について
設定は自宅電王戦となるべく同じにします。
将棋GUIの自動対局を使って先後を5局で入れ替えて対局。
(同じ条件での対局では先後の入れ替えは無し)
一手30秒
千日手or200手を超えると引き分けとします。


[対局環境(低スペ注意!!)]
CPU:第8世代Core-i-3(2コア4スレッド)
高校時代にメインで使っていたノートパソコンです。

このパソコンに入れた将棋GUIで自動対局させます。

使用する将棋AIにはAperyを使います。
飛車2枚が先手、角2枚が後手の対局を5局、
角2枚が先手、飛車2枚が後手の対局を5局の計10局
を行うことになります。
こちらでは、そのうちの1局について見ていき、最後に10局全体の結果を見ていきます。


ここからは、10局のうちの1局を実践例として紹介します。
これから紹介する一局は、飛車側が先手、角側が後手の対局で現れました。

タイトル
初手からの指し手は▲8六歩△7四歩▲8五歩△7三角▲8六飛と浮き飛車の構え
角側を持つ後手は△3四歩両側の角道を開けました

2022-03-25 (14)
当然ではありますが、序盤の課題は大駒の活用、角側は両方の角道を開ける必要があります。
しかし、飛車側はそうではなく、▲2六歩と両側から飛車を使う方法も考え付きますが…

2022-03-26 (1)
図のように、▲8八飛と左側に2枚の飛車を配置する指し方が強力です。
また、浮き飛車にすることにより、角道を開けるときに突いた歩を取りにいけるのも飛車側の強みですね。
角側は序盤から歩損をしながら戦うことになります。

ここから、角側を持つ後手は角の転換をして大駒を左辺(先手から見て)に移動し、
飛車側を持つ先手は陣形の整備を行い、▲7四飛と遂に飛車で横歩を取った局面(下図)
2022-03-26 (2)
この局面で後手は△4三銀と陣形を整備する一手。
ここから先手からの有力な攻めはパッと見て分かりませんが…


2022-03-26 (3)
▲8四飛飛車角交換に行きました!!
普通の将棋では考えにくい手ですが、先手には下段にもう一枚飛車が控えているために発生する一手です。
当然の対応で△同角▲同飛で後手は△8二銀と飛車成を受けますが(下図)
2022-03-26 (4)
なんと▲6四飛更に飛車角交換!!!!

2022-03-26 (5)
当然これには△同歩と取る他ありません。
そして▲6三角と空いたスペースに角の打ち込み、桂取りと馬を作る手を同時に見ている手で、
後手は△7三桂と桂馬を跳ねて受けます。

そして▲7九金とする手が分かりやすくめちゃくちゃいい手!!(下図)
2022-03-26 (15)
この手で相手から有効な飛車の打ち込みが消えます
△8七飛車打▲9六角打詰めろ飛車取りになり、後手は飛車を打つことが出来ません。
前に打っていた▲6三角打がここで効いてきていますね。


「序盤は角」という格言があるように馬を作る手がしっかり機能しており、
更に平たく打ち込みの隙が少ない陣形を作ることで大駒交換に強く、飛車を2枚渡しても全く使わせない理に適った作戦であると言えるでしょう。
これを見ていたときに私、感動しました。

その後は△3二金▲3九金△4二玉▲4九玉‥と陣形を整備する展開
先手は右elmo囲いまで陣形を整備してから馬を活かしての攻め、
後手はこれに対して3筋の付き捨てと△8八歩打△8六飛打と反撃(下図)
2022-03-26 (6)
先手に▲8七歩打と歩を使わせることで▲8三歩打の攻めを消します。
更に横歩を6六と3六で2枚を掠め取り、左辺(先手から見て)に回した飛車を活かした端攻めを見せます。
先手も2枚目の馬を作り端攻めを受けつつ相手陣に楔を打ち込む指し方(下図)

2022-03-26 (7)
この局面では後手から端を破るのには駒が足りず、先手に駒を渡すと馬との連携のため危なく、ここからは決め手に欠け、膠着状態になります。
私のレベルで指してしまうと指し手の方針が掴めずにすぐに不利になってしまいそうな局面ですが、駒の活用を合言葉に指していきます。

2022-03-26 (8)
2022-03-26 (9)
特に後手は玉から遠かった金銀を働かすことができ、先手の馬を上手く抑えながら金銀を展開してきています。(上図・下図)
2022-03-26 (11)
こうなると、飛車の打つ場所を消して馬を2枚作っていた先手が良さそうだった局面も、
攻勢に出ているのは後手で形勢も判断が難しいです。

ただ、後手は6一の飛車が6三の銀にヒモを付けている関係で動かしにくく、持ち駒の飛車を有効に使えないため攻めが細くなり、先手がこの攻めを受けきって先手が勝った結果になりました。(下図)
2022-03-26 (12)
注目するのは序中盤で、
序盤で飛車角交換を2回行いアヒルを思わせる打ち込みに強い陣形で有利を取った指し回しが非常に面白い一局でした。
後述しますが、角側は序盤から仕掛ける手が難しく、また、それによって浮き飛車で横歩を狙ったり、序盤から大駒交換を狙えたりする飛車側が序盤の主導権を握っていました。

しかし、中盤は角側も粘りを見せ、見ごたえのある一局でした。

続いて、10本勝負の全体の結果についてです。
まず全体の戦績を飛車、角の勝ち数(または引き分けの数)
次に飛車側が先手の時の戦績、角側が先手の時の戦績ときて、全体の公表をして終わります。

まず、全体での結果は…
飛車 4勝
角  3勝
引き分け 3局

となりました。
飛車が勝つのは何となく予想出来ていましたが、かなりの接戦ですね。
内容も接戦と言える激アツな対局がほとんどで、見どころもたくさんでした。

次に、飛車側が先手のとき、角側が先手のときの戦績を別々に発表すると‥
飛車側が先手のとき
飛車 3勝
角  1勝
引き分け 1局


角側が先手のとき
飛車 1勝
角  2勝
引き分け 2局


となりました。
飛車側が先手のときは飛車側が勝ち越し、
角側が先手のときは角側が勝ち越している
ところを見ると、
先後で勝ち負けがひっくり返るような拮抗した力関係が見えていいですね。

序盤中盤での作戦を大まかに傾向で見ると、
飛車側が主導権を握る対局がほとんどであるように見えました。
取り上げた例にあったように、飛車を左辺か右辺の片方に2枚展開していく作戦が10局中9局をしめていました。(例:下図)
2022-03-27 (2)

例外である1局については左辺も右辺も飛車先の歩を突いて両側から飛車を使っていく指し方でした。
(下図)


2022-03-27 (3)
どちらの指し方を飛車側が選んだとしても、
角側が△3四歩△7四歩と
角道を開けるときに突く歩を浮き飛車で取りに行くのが有効な作戦のようでした。

角側はこれらの事情から序盤中盤は防戦になることが多かった印象を受けます。
飛車側が横歩を狙うのが主な序盤の方針であったことから、
角側の序盤の方針を横歩を守ることや取らせて陣形を整備する‥などと考えることが出来ます。
それにより、横歩の守りや浮き飛車を圧迫するのに都合の良い
矢倉形や雁木形に近い陣形が見られました(これらの例として下図)。
2022-03-27 (4)
2022-03-27 (6)
二つの例で共通して言えることとして、飛車側が攻めに手数をかけている間に角側は守備の駒をうごかしているため、角側の陣形が飛車側に比べて大きく進んでいることがあります。
これに対して飛車側は飛車2枚(特に浮いている飛車)をいかに良い位置に持っていき角側の陣形に傷を付けることが課題になっています。

また、角側の取る作戦として、横歩を取らせないために片方の角道を開けないというものもありました(下図)。

2022-03-27 (9)
これを見ていたときは居角左美濃を目撃したことに大興奮しましたし、この一局は角側が快勝する激アツな対局でした。
序盤で歩損をしていないのが大きいのか、陣形差が大きいのか、要因については考察も色々あるところですが、角側が作戦勝ちする展開でした。


この対局では偶然角道を片方しか開けませんでしたが、両方の角道を開けてしまうと守る横歩が2枚になり飛車側に有利に働いてしまうとも考えられます。

以上、飛車vs角を将棋AIを用いて検証してきました。
結論としては、若干飛車の方が強い‥とも言える結果でしたが、飛車と角以外の要因が大きく絡んで難しいと言えるでしょう。

これを言ってしまうと仕方ありませんが、ケースバイケースです。
自陣に打ち込みの隙が無く相手陣に大駒を打ち込む隙があれば飛車2枚と角2枚を交換してしまう手が有効であったように、作戦や相手の出方次第で駒の価値は流動することの例と言えます。

有益な知見も得られ、面白い検証になりました。

有名な先駆者もいる検証でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!!
是非、他の記事も読んでください。



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